薬害イレッサ支援者の声
薬害イレッサの責任を明らかにし、早期解決を望みます」

薬害イレッサ東京支援連絡会 
 藤竿 伊知郎  ― 最高裁判所への上申書 ― (2012年4月19日)


 イレッサは2002年7月発売以来、2011年9月までに843人の副作用死が報告されています。被害は初期に多発し、発売後半年で180名が間質性肺炎で死亡しました。
 裁判の中で、その責任は明らかになってきましたが、解決が遅れると、医薬品の安全使用が脅かされます。
 医療の場にいる薬剤師として、最高裁判所の審理に期待します。

1. 東京高等裁判所判決の問題点
 東京地裁は、医療現場へ薬の安全性情報伝達が不十分であったと認定し、アストラゼネカ社と国の責任を認める判決を出しました。

 ところが、東京高裁判決は地裁判決を否定し、副作用死の責任は医師にあるとしました。
 「添付文書を一読すれば」イレッサは「副作用を全く生じない医薬品とはいえないものであることを容易に理解し得たと考えられる。これらの医師が,仮に本件添付文書第1版の記載からその趣旨を読み取ることができなかったとすれば,その者は添付文書の記載を重視していなかったものというほかない」
 発売当時、の実情は違います。医師が注意しようにも、重大な副作用はないとする情報があふれていました。

 一方で、承認審査の内容を示す5月9日付の「審査報告書」が公開されたのは、緊急安全性情報が出た10月以降です。
それまでは、企業提供のパンフレットしか詳細情報はありませんでした。
 5月24日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で、委員が問題点を指摘していた議事録が公開されたのは、2003年です。

 臨床試験での死亡例を反映させ、「急性肺障害、間質性肺炎等の重篤な副作用が起こることがあり、致命的な経過をたどることがある」と添付文書に書いていれば、臨床医は注意を払うことができました。

2. 重大な副作用欄に「間質性肺炎」を書いていれば十分なのか
 国は、大阪高裁への最終陳述で、間質性肺炎への対処は処方医の責任と主張しています。具体性のない記述でも、添付文書に記載していれば処方医に責任があるというのでは、医療現場は対応できません。

「イレッサの使用が想定されていた肺がん治療に携わる医師であれば,イレッサによる間質性肺炎が症例によっては致死的なものとなり得ることは容易に認識することができた」
「添付文書の『重大な副作用』欄には,患者の状態等によっては死亡に至るおそれのある副作用が記載されることは,一般の医師であれば当然に知っている事柄です。」と、国は陳述しました。

 これは「重大な副作用」には「当該医薬品にとって特に注意を要するものを記載」し、「致死的又は極めて重篤かつ非可逆的な副作用が発現する場合」は「警告」欄に記載するという、1997年に国が出した通達にも反する主張です。

 医師も薬剤師も、緊急安全性情報が出るまで、重要性に気づくことは無理でした。重要度に基づき表示されない添付文書では役に立ちません。

3. 消費者への情報提供が問題
 医療用医薬品を消費者に向けて広告宣伝することは薬事法で禁止されていますが、抜け穴があります。イレッサの発売前、マスコミ報道は、冷静さを欠くものでした。

 患者への直接情報提供も問題です。
 アストラゼネカ社は2002年1月から、「肺がん情報提供のホームページ エルねっと」を運用し、イレッサに関する情報提供を消費者向けにおこないました。

 人道的プログラムと称して、拡大治験プログラムによって日本人296名(うち、副作用死の疑い56名)を含む1万5千人の患者に、承認前のイレッサが投与されました。未承認医薬品のプロモーション活動として患者へ販売していたのです。

 医療機関は、患者の強い要望を受けて、早期に使用を始めなければいけない状況でした。
 薬事法のルールに従い、未承認医薬品の宣伝に関する乱れをただすことが必要です。

4. 安全性行政のゆがみ
 イレッサに関する裁判が長く続いていることから、日本の肺がん治療はいびつになっています。

 イレッサの教訓を受け、同じEGFRチロシンキナーゼ阻害剤作用をもつタルセバは、全例調査の承認条件がつきました。
 臨床試験で延命効果を証明されたタルセバが、使用医師の登録と全例調査で使いにくいため、臨床現場で敬遠されています。有効性と安全性のバランスから見て、逆転した規制結果になっています。

 イレッサを特別扱いするために、安全性行政の原則から逸脱しています。現在おこなっている安全行政さえ否定する被告側の主張を認めることはできません。
 最高裁判所が迅速に裁判を終結させ、この事件を解決することを期待します。

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